2019年3月29日 12:02 PM

『第88回理学療法通信』

『誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)について(1)』

高齢者や脳卒中の後遺症などにより、口の筋肉や喉(のど)の機能が衰えたり、麻痺などによって、食べ物を噛んだり、唾液や飲み物を上手に飲み込むことができないことを嚥下障害(えんげしょうがい)といいます。誤嚥性肺炎はこの嚥下障害が主な原因で起こります。

 

【誤嚥(ごえん)とは】

嚥下障害が原因で、食べ物や飲み物、唾液に混じった口腔内の雑菌が、胃につながる食道に流れるのではなく、誤って肺へつながる気管に入ってしまうことを誤嚥といいます。

 

【誤嚥性肺炎とは】

食べ物や飲み物、唾液等が気管に入ってしまうことを誤嚥といい、誤嚥が原因で引き起こる肺炎を誤嚥性肺炎といいます。

 

【誤嚥性肺炎の症状】

○ 数日間熱が出る    ○ 呼吸が苦しそう       ○ 元気がない

○ 痰が出る       ○ 呼吸の雑音が聞こえる

 

【こんな症状ありませんか?】

以下の項目は、誤嚥性肺炎になりやすいサインです。この項目に当てはまる場合、口や喉のまわりの筋肉を使う運動や、飲み込む練習が必要です。また、食べ物を食べやすくしたり、飲み物を飲み込みやすくする食事の工夫も必要です。

□ 食事中によくムセる(咳をする)   □ 食べ物をよくこぼす

□ 飲み物が口からこぼれる             □ 食後に声が嗄れる

□ 飲み物をゆっくり飲まないと飲めない □ 唾液を飲んだだけでもムセる

 

【こんな生活してませんか?】

□ 固い食べ物を殆ど食べない     □ 普段、あまり大きな声を出さない

□ 歯磨きが嫌い           □ 食べ物を噛まないで飲み込む

□ 食事中に食べ物をかきこむ     □ 食事は一人で食べる

□ 食事中、口の中が食べ物でいっぱい □ 姿勢が傾き、食べづらい

□ 他の人とあまりお話しをしない   □ 食事中に黙って食べる

□ 全体的に運動不足         □ 笑わない

 

上記の項目に当てはまる方は、唾液分泌の低下や口のまわりや喉の筋力の低下につながりやすい生活習慣です。誤嚥性肺炎の原因となる嚥下障害リスクを事前に予防し、これから先、食事を楽しく美味しく食べるためにできることを今のうちからしておきましょう。

 

 

 

 

2019年3月1日 5:28 PM

『第87回理学療法通信』

『 認知症について(4)』

軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment)と認知症予防

軽度認知障害(以下:MCI)は、大脳皮質の萎縮(脳の容量減少)や神経細胞の減少などにより、

医者から「認知症」と診断されるより前の状態を指します。年相応の認知機能低下よりも認知機能が低下しているなど、高齢者の10%~20%がそれに該当すると言われています。このMCIの場合、何もしなければ認知機能の低下がそのまま進行してしまいますが、この段階で予防することができれば、回復する可能性が高いと言われています。

一方、医師から「認知症」と診断されてから認知症予防の食生活や運動を行っても、現時点では、

改善しにくいため、MCIの時期あるいは、MCIになる前から予防することが大切とされています。

 

認知症予防と運動効果について

認知症の方の運動効果については、実際のところ研究段階です。特に、MCIの方を対象とした運動

効果についての研究は現在進行形の状態であり、多くの医療機関や介護施設で取り組みがなされています。ある施設では、複合的な運動プログラム(準備体操としてのストレッチ・有酸素運動・筋力強化練習・二重課題運動など)を通じてMCIの高齢者の認知機能の低下抑制や記憶力向上の効果が認められたという研究結果も報告されています。しかし、複合的な運動のため、どの運動が認知症予防に最適なのかということは、まだわかっていません。しかし、積極的に運動した場合と運動をしなかった場合では、たった半年で脳容量(脳萎縮)に大きな差みられたそうです。

 

認知症に有効とされる運動

2011年の研究では、有酸素運動とストレッチで比較し、有酸素運動で記憶を司る「海馬」の体

積が2%増加したという結果が出ています。そして、ストレッチだけでは逆に「海馬」の体積が減少したとのことです。つまり、有酸素運動を行うことで、適度に心拍数を上昇させ、全身の血流はもちろんの事、「海馬」や「前頭前皮質」など記憶や認知機能を司る脳血流などが改善されたことにより、認知症予防には無酸素運動より有酸素運動が有効だということがわかっています。その他、有酸素運動だけではなく、有酸素運動と同時に認知機能への刺激活動を同時に行うことも、認知症予防に最適であることも多く知られています。

 

★ 認知症に良いと言われる有酸素運動

(例)ウォーキング/エアロビクス/水泳 など  (1日30分/週3回程度)

 

★ 有酸素運動と認知機能への刺激を同時に行う活動

(例)コグニサイズ/料理/そろばん/デュアルタスク運動(二重課題運動)

 

【コグニサイズとは】

  国立長寿医療センターが開発し、推進している運動で、認知症予防を目的とした有酸素運動と

  脳活性を促す認知課題を組み合わせた運動

【デュアルタスク運動とは】

  有酸素運動と認知課題を同時に促すもの

(例)・ウォーキングしながらしりとりを行う  ・足踏みしながら野菜の名前を沢山言ってみる

 

 

●運動は、楽しみながら行うのがいいそうです。普通の散歩でも、お友達と話をしながら行って、 できるだけ長く続けられるように心掛けましょう。

 

 

《参考URL》

・牧迫飛雄馬・島田裕之・土井剛彦・堤本広大・中窪 翔・堀田 亮『認知症予防のための

 運動効果とこれからの課題』分科学会シンポジウム9(日本予防理学療法学会)理学療法学

 第42巻第8号 811~812貢(2015年)

<https://www.jstage.jst.go.jp/article/rigaku/42/8/42_42-8_104/_article/-char/ja/>

《参考URL》

・国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 認知症予防運動プログラム「コグニサイズ」

<http://www.ncgg.go.jp/kenshu/kenshu/27-4.html>

《参考URL》

・秋山 治彦 日本神経病理学会 東京都精神医学総合研修所 『アルツハイマー病』

(2006年2月)

<http://www.jsnp.jp/cerebral_12.htm>

《参考・引用文献》

・Erickson KI, Voss MW, PrakashRS, Basak C, Szabo A,Chaddock L, Kim JS, Heo S, Alves H, White   SM Wojcicki T, Mailey E, Vieira VJ, Martin SA, PenceMB, Woods JA, McAuley E, Kramer AF.(2011)Exercise training increases size of hippocampus andimproves memory. PNAS 108(7), 3017-3022.

 

 

 

 

2019年2月6日 10:07 AM

『第86回理学療法通信』

『認知症について(3)』

これまで、認知症についてご紹介してきましたが、今回は一般的に効果的とされている認知症予防についてご紹介したいと思います。

■認知症は「生活習慣病」とされている?!

・多くの研究の中で、認知症は「生活習慣病」という考え方が広まっています。例えば、脳血管性認知症は、脳梗塞の原因となる高血圧や動脈硬化などから生じるため、食生活を見直したり、適度な運動を行うことで認知症になるリスクを軽減できるとされています。

■認知症予防に良いと言われる食べ物

★アルツハイマー型認知症・レビー小体認知症には「抗酸化物質」が有効とされている。

<抗酸化物質をたくさん含む食材>

・ウコン(ターメリック)、ポリフェノール(ワイン)、コーヒー(香料がついてない物)

★脳血管性認知症には「脂肪酸」の摂取に注意が必要で、「脂肪酸」は生活習慣病の発症や

予防に深く関連している。

不飽和脂肪酸(魚油や植物油に多い)

大豆油、ゴマ油、豆腐、油揚げ、味噌などに多く含まれており、植物の油や魚の脂肪に多く含まれます。摂り過ぎは、肥満や脂質異常症などの原因になりますが、適量であれば中性脂肪やコレステロール低下作用をもち、動脈硬化症予防効果があるとされています。

飽和脂肪酸(動物性の脂質に多い)

ベーコン・ソーセージ・チーズ・バターなどの食品に多く含まれており、肉や乳製品の脂肪に多く含まれます。過剰摂取で動脈硬化や脳卒中のリスクが高くなると言われています。

トランス脂肪酸(天然の植物油にはほとんど存在せず、人工的に作られた硬化油)

マーガリン・パン・ドーナツなどの食品に含まれており、これを長期的に摂取していると、動脈硬化が起こり虚血性心疾患のリスクが高くなり、認知機能の低下などが問題視されています。

認知症に良いと言われる脂肪酸

・オリーブオイル:善玉コレステロールを下げずに悪玉コレステロールを下げる作用

・えごま、亜麻仁油:中性脂肪、コレステロールを下げる効果がある。

■ その他、認知症に良いとされる食べ物

【ビタミンCを含む食材】

・野菜類:赤ピーマン、芽キャベツ、パセリ、ブロッコリー

・果物類:アセロラ、いちご、キウイ、デコポン

・魚介類:たらこ、すじこ、いくら

【ビタミンEを含む食材】

ビタミンEは野菜類・果物類・魚介類に多く含まれているそうです。

・野菜類:モロヘイヤ/赤ピーマン/自然薯/大根葉

・果物類:うめ/アボガド

・魚介類:あんこうのきも/すじこ/いくら

食生活を見直し、適度な運動を行うことで生活習慣が健康的に改善すれば、動脈硬化や高血圧の予防につながります。毎日の心がけで認知症リスクを低下することができるので、早速生活習慣を見直してみましょう。

【引用文献】

・大友英一 (2005年)『毎日できちゃうボケ防止』 求龍堂.

・参考URL

医療法人社団 緑会 佐藤病院 ホームページ「認知症予防の食事」

<http://midori-satohp.or.jp/article/41.html>(アクセス日:2018.12.31)

・参考URL

旬の食材百科 ホームページ 「ビタミンE」「ビタミンC」

<http://foodslink.jp/syokuzaihyakka/Vitamin/eiyou/ehtm>(参照2018.12.31)

<http://foodslink.jp/syokuzaihyakka/Vitamin/eiyou/chtm>(参照2018.12.31)

2019年1月9日 5:13 PM

『第85回理学療法通信』

『認知症について(2)』

前回は、認知症のタイプについてご紹介しました。今回は、失禁や歩行障害、記憶力の低下などの認知症と似た症状が出現しても、治療を行うことで認知症状が軽減する「治療可能な認知症」についてご紹介したいと思います。

★治療可能な認知症

■ビタミンB1B12欠乏症

アルコールを沢山飲みすぎていたり、食事が充分に摂れていない場合、身体に必要なビタミンが不足してしまうことで、起こります。

●ビタミンB1欠乏症

脚気(しびれ・むくみ・血圧低下・心臓肥大)、ウェルニッケ脳症(せん妄・歩行障害・眼球運動障害)などの症状がみられます。

●ビタミンB12 欠乏症

高齢者(胃酸の分泌が低下しやすい)や手術で胃を切除した場合など、ビタミンB12 が吸収されにくくなります。症状は、貧血やせん妄、意識障害などがみられます。

【改善方法】ビタミンを摂取する事で改善されます。

ビタミンB1を多く含む食品:豚肉・うなぎ・たらこ・ナッツ類

ビタミンB12を多く含む食品:豚レバー・鶏レバー・牛レバー・うなぎ・牛乳

 

■正常圧水頭症

●脳脊髄液が脳室に溜まり、脳室が拡大して周囲の脳が圧迫されて起こるものです。特徴は、尿失禁や歩行障害(すり足)が見られます。

【改善方法】手術により髄液を抜くことで改善します。

 

■硬膜下血腫

●転倒や外傷により、脳を覆っている膜(硬膜とくも膜)の間の静脈が出血し、血の塊(血腫)が脳を圧迫して起こるものです。

【改善方法】血腫が小さければ自然に吸収されますが、血腫が大きい場合には手術にて血液を吸引することで改善します。

 

■甲状腺機能低下症                         

甲状腺ホルモンの分泌量が不足して体の活動力が低下するものです。症状として、食欲がないのに体重が増加する、浮腫み、皮膚の乾燥や寒がりなどがみられます。

【改善方法】甲状腺ホルモンを補充することで改善する

 

※せん妄:意識障害の1つで、不安・イライラ・不眠・興奮して暴れる・幻覚などの症状が出現する。また、夕方から夜間に見られやすい。

 

 

日常生活の中で、認知症と似た症状がみられるが、受診せずに放置してしまうと、症状を長引かせてしまうこともあります。「治療可能な認知症」なのかどうかを判断するためにも、症状がみられた時に、できるだけ早期に受診することが大切です。また、日常生活の生活状況をしっかり医師に伝えることで、「治療可能な認知症」であるのか「認知症」なのかを医師が判断しやすい貴重な情報となるため、病院へ受診した際には、身近な人が状況をできるだけ細かく伝えることも大切です。

 

2018年12月8日 1:34 PM

『第84回理学療法通信』

『認知症について(1)』

近年、私たちにとって認知症は身近なものになってきました。認知症といっても様々なタイプがあり、今回は、代表的なものについてご紹介したいと思います。

 

 

●脳血管性認知症

(のうけっかんせい認知症)

 

<原因>

主に動脈硬化(血管が硬くなること)が原因となり、脳卒中(脳梗塞・脳出血など)により、脳の神経細胞が死滅することで起こります。

<特徴>

□ 見当識障害:時間・場所・人の名前を忘れ自分の置かれている状況がわからない

□ 物忘れや記憶障害:食事をしたことを忘れる・  薬を飲んだことを忘れるなど

□ 歩行障害や言語障害が伴う:人によっては麻痺や言葉が上手く話せないこともある

□ 実行機能障害:物事の計画を立てて順序立て行うことができない(料理を段取りよく作れない)

□ まだら認知症:認知症状がみられる時とみられない時がある

□ 脳卒中を再発するとその都度悪化する:脳卒中は再発する場合があるため、認知機能もその都度

                                                          低下する

●前頭側頭型認知症

(ぜんとうそくとうがた認知症)

<原因>

前頭葉(感情を司る領域)と側頭葉(聴覚や記憶を司る領域)の萎縮(脳が縮むこと)により起こります。

<特徴>

・同じ事を何度も繰り返す:毎日、本人の好む行動パターンがありそれを実行しないと気が済まない

・食べ物や行動など異常な執着がある:冷蔵庫に食物を次から次に詰めこみ、物が腐っているのに気付かない

・集中力や自発性がなくなる:飽きっぽい・じっとしていられない・興奮しや すい・抑制が効かない

・万引きなど反社会的な行動が見られる場合もある:人のものを盗ったりする行動が見られる

 

●アルツハイマー型認知症       

 

<原因>

特殊たんぱく質(アミロイドβ・タウ)が脳に溜まることが原因とされており、神経細胞が壊れて死んでしまうために起こります。記憶を司る場所(海馬)の血流が悪くなり記憶障害などが目立つようになります。

<特徴>

・体験そのものを忘れてしまう物忘れ:食事をしたことを忘れてしまう

・判断力の低下:真夏に冬服を着る・調理の際、調味量を入れすぎてしまう

・失行・失認・失語:身近な物の名前がわからない・ズボンを頭に被る・

          身近な物の使い方が わからない

・時間・場所・人を忘れる:家族の名前を忘れる、自分がどこにいるかわからない

・行動・心理症状が出現する:人によっては、物取られ妄想・徘徊・昼夜逆転などがみられる

 

 

 

●レビー小体型認知症

(レビーしょうたいがた認知症)

<原因>レビー小体という特殊たんぱく質が大脳皮質や

脳幹(生命活動を司るところ)に異常に蓄積されることで起こる。

<特徴>

・幻覚・幻視:壁のシミが虫に見える・子供が沢山いるなど実際には見えないものが見える

・日内変動がある:一日の中で、頭がハッキリしている時と、ボーっとした時がある

・うつ症状:ふさぎ込んでしまい活気がなく、何もしたくない状態になる

・睡眠中の異常行動:睡眠中に暴れる・大声を出す、眠れない

・パーキンソン症状と似た症状がみられる:突進するように歩く・震える(振戦)・動作が緩慢

                         小刻み歩行

 

 

 

 

2018年11月3日 7:29 AM

『第83回理学療法通信』

『(後編)転倒予防:足にも注目!!』

今回は、足の運動と足のケアの仕方についてご紹介します。

■湯船の中やお風呂上りの運動がオススメ!

運動不足の方や体に痛みがある方は,湯船の中やお風呂上りの運動がオススメです。

筋肉が温まって柔らかくなっているときに行います。

<運動1>

足のマッサージ

足の指を動かしたり、足のうらを親指で押して足全体を柔らかくしましょう。足の指の間に手の指を入れて,足を柔らかくするイメージでゆっくり回しましょう。

<運動2>

バスタオルを丸めて足のうらで踏む(運動を行う時は、何かにつかまって立って行いましょう)

いきなり竹踏みを行うと痛みが出る場合があります。そのため、バスタオルを丸めてその上を足のうらで踏みましょう。足のうらで踏むところは、土ふまず・かかと・足の指の付け根・足のうらの外側など足のうら全体を柔らかくするつもりで踏みましょう。

※タオルが潰れたらタオルをひっくり返して行います

<運動3>

タオルギャザー (椅子に座って行いましょう)

タオルを足の指で手繰ります。最初は、上手にできないため、タオルにシワを作っておくと手繰りやすいです。慣れてきたらシワを少なめにして足の指だけで手繰ります。注意点としては、なるべく足首は上に向けないように、足のうら全体を床に付けた状態で手繰りましょう。

 

 

 

 

 

<運動4>

つま先立ち

運動する時は、転倒予防のため手すりなどにつかまり実施しましょう。運動方法は、ゆっくり踵をあげて戻します。階段などでできる方は、縁から踵を降ろしてから行ってみましょう。

2018年9月27日 12:02 PM

『第82回理学療法通信』

『(前編)転倒予防:足にも注目!!』

若いときには転ばなかったのに、年をとると転びやすくなるのはなぜでしょう。理由は、運動不足はもちろんですが、体のさまざまな部分が無意識にタイミングよく働かなくなってしまうためです。少し難しい言葉を使いますが、転倒しそうになり「あぶない!」と思った時に視覚・バランス感覚・筋・神経など様々な要素がタイミングよく反応できるかどうかが大切です。転ぶ寸前に手が出たり足が出たり、体の一部が反応し転倒しないようにブレーキをかけることが出来れば転倒は防ぐことができます。当たり前ですが、寝ていれば、転倒はしません。ヒトは立ったり、歩いたりして生活するため、転倒します。今回は、ヒトが立っているときに唯一地面に接している足部の機能改善について前編と後編に分けてご紹介していきたいと思います。

 

■足の骨のカタチを知りましょう

足部の骨は、大小合わせて26個で構成されています。足部の骨の構造から、指先の方は細かく小さい骨でできており、踵側の骨は大きく太い作りになっています。その骨の構造などにより、普通に立つと重心(体重)は指先よりも踵に乗りやすくなります。立った姿勢でヒトが後ろに転ばないのは、全身の筋肉が常に緊張したり緩んだりしながらバランスをとっているためです。

 

 

■足は土台

足部は、体重を支えたり、歩いている時の衝撃を吸収するなどいろいろな役割を果たしています。また、転倒しないように全身のバランスをとるための土台でもあります。足部には、足弓(以下:アーチ)と呼ばれるカーブがあります。 いわゆる土踏まずなどのアーチは、生まれたときは低く未完成ですが、成長と成長過程の運動にともない足のうらの靭帯と筋肉によって高さを維持するようになります。このアーチがないと重心の位置が定まらず転倒してしまいます。そのため、アーチの機能を維持し高さを保つことは転倒予防につながります。また、アーチの高さが高いほど足の指の筋肉が動かしやすくなるため、アーチの高さ(機能)を保つことはとても重要なことなのです。

 

■足のアーチは3つある

足部のアーチは全部で3つあり、縦に2つ(内側・外側)横に1つあります。親指側の内側のアーチは、歩く時の推進力に働き、外側のアーチはバランスや支持性に働きます。横のアーチは、歩くときに衝撃を吸収したり、足を地面に密着させるための役割があります。

 

■足の機能を蘇らそう!!

特に高齢者になると運動不足や活動量の低下などにより足部全体が硬くなり、足首や足の指などの動きが鈍くなります。足首はもちろんですが、足の指の動きが制限されてしまうと、足の踏ん張りが利かなくなり、転倒につながります。そのため、まずは足を柔らかくしてしっかりと踏ん張れるように心がけることが大切です。次回は足の運動と足のケアの仕方についてご紹介します。

2018年9月1日 5:27 PM

『第81回理学療法通信』

『床ずれについて』

私たちは、生活しているときに無意識に姿勢を変えます。例えば、立ち仕事をしていて腰が痛くなったり、足が疲れたときには屈伸や椅子に腰掛けて休憩することができます。また、夜間寝ている時でも寝返りや体の向きを頻回に変化させ、寝心地のいい姿勢に整えています。体に痛みを感じたり、姿勢が不快であることは体からのサインであるため、それをもとに私たちは姿勢を変更することができています。今回は、姿勢を自分自身で変更できない人に起こりやすい「床ずれ」についてご紹介したいと思います。

■「床ずれ」とは

「床ずれ」は、病院や介護施設では一般的に褥瘡(じょくそう)と呼ばれています。年齢に関係なく体や手足の骨の突出部などの皮膚や皮下組織が長時間の圧迫により、血流が悪くなることにより起こります。血流の悪い状態が長時間続くと、最終的に圧迫部分の組織が死んでしまいます。高齢者などご自身で寝返りや起き上がりができない方や、麻痺などがあり全く手足が動かせない方は、家族や介護ヘルパーなど周囲のサポートが必要不可欠となります。

■痩せ型の方は「床ずれ」になりやすい

健康な人の骨は筋肉や脂肪などに覆われていますが、寝たきりの方や、栄養状態の悪い方は筋肉量や脂肪組織が減少していることが多いため、「床ずれ」が起きやすくなります。また、車イスや椅子に座れる方でもご自身で姿勢を変更させられない方や変更する頻度が少ない方は、お尻の骨や背骨などで長時間圧迫される部位が「床ずれ」になる可能性が高くなります。

■「床ずれ」の起きやすいところ(★印)

仰臥位     後頭部・肩甲骨・肘関節・お尻の骨(仙骨)・踵(かかと)

側臥位     耳  肩関節 肘関節 腰の骨(腸骨)

          太もも外側の骨(大転子) 腓骨部 外くるぶし

 座位          肩甲骨 背骨 肘関節 お尻の骨(坐骨)

■「床ずれ」の予防

床ずれにならないようにするためには、予防がとても大切です。「床ずれ」の予防でいちばん大切なことは、床ずれの起きやすいとされている部分が布団や椅子に同じ姿勢で長時間圧迫されないようにすることです。また、体の位置を移動する時や、長時間座っているときに徐々に体がずり落ちる事で起こる「皮膚のズレ」も床ずれの原因になります。「皮膚のズレ」が考えられる時は、ベッドや車椅子等と体の間に一度手を通すなどして、「皮膚のズレ」をなおすことも予防になります。医療現場や介護施設などでは一般的に2時間くらいの間隔で体位変換(体の向きを変えること)を行っています。また、ポジショニングといって、体の向きを変えるだけではなく、余計な力が入らずリラックスできるように、クッションや枕などを適切な場所に置き、安楽な姿勢の提供をしています。

 

2018年7月31日 2:27 PM

『第80回理学療法通信』

『足関節捻挫について』

みなさんは、足をくじいたことや捻挫(ねんざ)をした経験はありますでしょうか?「捻挫」は、大人も子供も経験する身近なケガです。捻挫後の処置が適切でないと、繰り返し捻りやすくなったり、その後の日常生活に影響を及ぼしてしまうこともあります。今回は、「捻挫」についてご紹介したいと思います。

● 足関節捻挫とは・・・

「捻挫」は、くるぶしの下に付着している靭帯が損傷した場合に起こります。例えば、バスケットボールやサッカー、バレーボールなどの接触プレーでよく起こります。人の足を踏んでしまったりジャンプして着地に失敗したり原因は様々ですが、一番捻りやすい状況は、片足で踏ん張った時など、つま先が下を向いた状態で足の裏が内側に向き、外くるぶし側に体重が乗ってしまうことで生じます。捻挫は、つま先が下を向いた状態で足の裏が内側を向く「内反捻挫」とつま先が下を向いた状態で足の裏が外側を向く「外反捻挫」に分けられます。

● 捻挫の応急処置(RICE

足を捻った直後は、痛みや腫れ、熱感などがみられます。受傷直後に無理に動かすと、痛みが増強したり、腫れが引いても痛みが残ってしまったり、関節がグラグラして足首が不安定になってしまうため、応急処置を必ず行ってください。応急処置の方法としては「RICE(ライス)」が有名であり、よくスポーツ現場などで行われています。

・・・Rest(安静)

患部を悪化させないためにも安静が必要です。受傷直後に痛みを我慢して無理に動かしたり、少し歩けるからといって無理に体重をかけてしまうと患部を悪化させてしまい、治癒期間が延長してしまうことがあります。医療機関への移動時など、どうしても動かさなければいけない状況では、新聞紙やテーピング、タオルなどを使用し足首を固定しましょう。

I・・・Ice(アイシング)

受傷直後に、患部が腫れ、熱感、発赤、機能障害などの炎症症状が徐々に見られてきます。炎症症状を抑えるためにも、氷水や氷で患部を冷やしましょう。冷やす時間は、15分~20分程度で冷たいという感覚がなくなるまで冷やし、1~2時間くらい間隔を空けて繰り返し冷やしましょう。

(2~3日程度)

C・・・Compression(圧迫)

炎症症状により生じる血流増加や痛みを最小限に抑えるために患部周辺をテーピングや弾性包帯で圧迫します。圧迫固定することで、治癒期間を短くすることができます。圧迫方法は、血流を妨げない程度にし、痺れが出ないよう注意して巻きましょう。

E・・・Elevation(拳上)

心臓より高い位置に足を挙上し、足の内出血や腫れを予防しましょう。

 

★靭帯の損傷程度で、競技復帰できるまでの期間がおおよそ把握できます。

 

1度(軽度)

靭帯の微細損傷と軽度の痛みや腫れがあり、受傷直後は応急処置(RICE)を実施してください。痛みや腫れを確認し、日常生活で支障がなければ運動を開始できますが、2~3日で痛みが軽減しなければ医療機関に受診してください。損傷の程度によりますが、競技復帰は1~2ヶ月程度で可能になります。

2度(中等度~重度)

靭帯の部分断裂で腫脹、熱感がみられ、痛みが強い。受傷直後は応急処置(RICE)を行い、医療機関に受診してください。適切なリハビリを行い、痛みの有無や歩行状態を確認し、日常生活に支障がなければ運動を開始していきます。競技復帰までは、おおよそ2~3週程度かかります。

3度(非常に重度)

完全な靭帯断裂で痛み、熱感、腫れなどがみられる。痛みが強く、歩くのが困難となる。損傷の度合いによっては、手術適応になることもあるため、病院へ受診し整形外科医やスポーツドクターにきちんと診てもらいましょう。競技復帰に関しては、医師の指示のもと適切なリハビリを行います。損傷の程度にもよりますが、日常生活がスムーズに行えて競技復帰するまでには、2~3ヶ月以上かかる場合があります。

 

2018年6月27日 10:25 AM

『第79回理学療法通信』

『杖の選び方について』

超高齢化社会になった現在、杖や車椅子などといった福祉用具はドラックストアや薬局、ホームセンターなどで気軽に購入できる時代になりました。街で周りを見渡すと、意外にも不安定な杖の使い方をされている方が多いことに気がつきます。今回は、一般的な杖(T字杖)を購入するときの杖選びのポイントを簡単にご紹介したいと思います。尚、現在杖を使用されている方も見直しすることで安定性が増すことがありますので、ぜひチェックしてみてください。

T字杖を選ぶときのチェックポイント

・杖の太さ(周径)は細すぎないか?

杖の太さ(周径)が細すぎると杖をついた時にバランスを崩しやすく転倒につながる恐れがあります。杖の太さは、なるべく標準的な太さの杖を選びましょう。おおよそですが、パイプの太さは手元が21mm・杖先19mm・キャップ接地部分3.8cm程度のベーシックタイプが適当かと思います。歩行時のふらつきや歩きに自信がない方は、是非お試しください。ただし、杖が太い場合は重さが気になる方もいるかと思います。その場合は、軽量でもなるべく太い杖を選ぶと良いでしょう。

・杖の高さは調整可能か?

杖の高さ調整ができない場合、杖本来の機能である「体重を支える」ことが不十分になることがあります。杖の高さが原因で転倒につながることもあるため、できるだけ高さ調整のできる杖を選びましょう。折りたたみ可能な杖は便利ですが、杖を組み立てた時の杖の高さがご自身の身体に合うかどうか確認してから購入すると良いでしょう。また、杖の高さは一般的に太ももの外側に出ている骨のあたりに持ち手がくる高さが良いと言われていますが、正確な高さ調整については個人差があるため、理学療法士などの専門家に診てもらいましょう。

・杖の先端は、杖の素材がむき出しになっていないか?

市販されている福祉用具の杖の先端はゴムキャップが付いているものがほとんどです。しかし、杖の素材が「木材」を使用した物の場合、杖の先端にキャップのないものも多く、「木」がむき出しになっている場合があります。杖の先端部分は歩くときに支点となる部分ですが、先端部分がむき出しになっていると杖をついたときに杖が滑ってしまうことがあるためとても危険です。転倒につながらないように先端部分にキャップのついている物を選びましょう。

 

 

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